去る6月、うーこうの誕生日だから、ひさびさに日記を書こうと思い、
「うーこうの走り方がダイオウグソクムシに似ている」という話を書こうと思っていたのだが、
もはやグソクムシどころじゃないくらい、たいへんなことになってしまった。
うーこうの目が、ついに両方とも見えなくなってしまったのだ。
猫は視力よりも聴覚が優れていると言われるが、
うーこうは耳が聞こえず、鼻も詰まりやすいので、目だけが頼りであった。
その大事な視力がなくなり、音も光もない世界になってしまったのである。
気付いてすぐに病院に行ったが、医師の話しぶりから見て、治りそうな気配はない。
日に日に悪化するうーこうを連れて、「なんとか治してください」とお願いしつつ、
おいらはおいらで、うーこうの日々のお世話を考えなければならなかった。
以下、すごく長い話になるが、何か猫飼いの人達に参考になるかもしれないので、
6月以降に起こったこと、やってみたことを順に書いてみる。
======
うーこうは、毎日サンルームに来てニンゲンと遊ぶのが日課であった。
おいらが猫部屋から出て事務所に行こうとすると、
うーこうは待ってましたとばかりに、扉の前に立つ。
そして扉が開いたとたん、ものすごい勢いで事務所のほうへ走っていき、
フンカフンカと事務所の人達に挨拶をして、サンルームへ誘っていたのである。
異変に気付いたのは、事務所に行くときにゆっくりと歩くようになったことと、
事務所から猫部屋へ帰れなくなって、おしっこをしてしまったことからだ。
(おしっこは、ちゃんとカラの箱の中にしていた。
たぶん困り果てて、トイレと似ている箱にしたのだと思う。)
その後、うーこうの目はみるみる悪化していき、もう事務所どころではなくなった。
うーこうは、あちこちに顔をぶつけながら歩き、
ベッドに乗り降りすることもできなくなり、
狂ったように「うぎゃー、うぎゃー」と鳴くばかり・・・。
目が見えないということは、自分がどこにいるのかわからないということだ。
たとえ自分の位置がわかったとしても、方角がわからなくなると、
もうどちらが壁なのかさえもわからなくなる。
うーこうはその恐怖から、ずっとパニックになっていた。
おいらは、うーこうの右目が悪くなったときから、いつか両眼とも
見えなくなる日が来てしまうのかもしれないと、頭では覚悟していた。
でもいざその状況になると、こんなにも苦しい状況になるとは、
現実のこととしてきちんと想像できていなかった。
しかし、悲しみに暮れている場合ではない。
目が見えなくても、うーこうはちゃんと生きているのだ。
音も光もない世界にいるうーこうを思うと猛烈に胸が痛むが、
しかし今は病気のことは医者に任せて、
おいらはうーこうが少しでも幸せを感じられるように、
冷静に自分にできることを考えて、行動しないといけない。
おいらは自分に鞭打って、必死で考えた。
======
まず最初に考えたのは、猫部屋に座標軸を作ることである。
部屋の中央から、縦に1列、横に1列のタイルカーペットを並べ、
ちょうど数学の「XY座標」みたいになるようにした。
こうすれば、足の裏の感覚で、座標軸の上を歩くようになるかもと思ったのだ。
しかし、うーこうは確かに座標軸の形(タイル)を認識してくれたものの、
方角(東西南北)がわからないので、移動することができない。
一時的に方向がわかっていても、一度ロストするとおしまいである。
特に、人間に抱っこして運ばれると、うーこうは「位置」も「方向」も両方わからなく
なってしまい、怖がってパニックになってしまうようであった。
うーこうは抱っこで運ばれることを嫌がった。
うーこうは、自分で自由に移動できることを望んでいるのだ。
なんとか方角を知覚する方法はないものかと、あれこれ考えた結果、
おいらはX軸の端にサーキュレーターを置き、
「風が来る方が東だよ」という情報を猫部屋に付け加えてみることにした。
わかってくれるかどうか不安だったが、意外にもうーこうはすぐに理解して、
X軸の上を何度も行ったり来たりして、風の向きを確認していた。
そしてうーこうは、自分の位置と向きを把握することでパニックが治まり、
少しずつだが猫部屋の中を移動できるようになっていった。
おいらとしては、この成功は快挙であり、非常にうれしいものであった。
======
こうしてうーこうは、どうにか自分で移動できるようになってきた。
だが、これは移動して食事やトイレをすることができるようになった「だけ」である。
うーこうが光とともに失ったのは、移動力だけではなかった。
うーこうは、生きる楽しみも見失ってしまっていたのだ。
うーこうは移動の際に毛先やヒゲを「障害物センサー」として使っているようで、
すべての皮膚感覚を周囲情報の収集に使う必要があるため、
今までのようにニンゲンにくっついたり、スリスリしたりする余裕がなくなった。
身体に触れるとびっくりして跳び上がってしまうため、触られることを怖がった。
つまり、スリスリとかナデナデというような、
「猫と人間の意思疎通」が、
全然できなくなってしまったのである。
うーこうは、ごはんとトイレに行く以外は、ずっと寝ているだけになった。
過去のフレンドリーなうーこうとは、まるで別猫のようになっていった。
これでは、移動ができても幸せとは言えない。
おいらはうーこうが絶望しているように見えて、それがとてもつらかった。
それで考えたのが、「振動による意思疎通」である。
おいらはうーこうのそばに寝て、急に触ったりしように気を付けながら、
布団を指先でポン、ポン、ポン・・・と、一定のリズムで叩くようにした。
叩く速さは、ちょうどうーこうの呼吸と同じ速さになるようにした。
おいらは赤ん坊を育てたことがないからよくわからないけど、
人間の母親が赤ちゃんをポンポンしているのを思い出して、
こうすれば「おいらからのメッセージ」として、何かが伝わるかなと思ったのだ。
するとうーこうは、おいらの意図をすぐに理解してくれた。
うーこうは、布団を叩くと、まるで返事をするように、盛大にぐるぐる言うようになった。
そう言えば、もともとうーこうは、人間がそばにいることを、いつもチラ見して
確認しているような猫だったのだ。
目が見えなくなって、その確認もできなくなってしまい、触れられることも怖くなって、
すっかり「世捨て猫」のようになりかけていたが、
こうしてまた意思疎通ができるようになると、うーこうはだんだん元気になっていった。
おいらが布団をポン・ポン・ポン・・・と叩いているあいだは、
「今ニンゲンがそばにいて、ちゃんとあなたの寝顔を見てますよ」というメッセージとして、完璧に伝わったのである!
それからは、とにかく何度もうーこうの寝床(おいらのベッド)へ行き、
布団をポンポンやったり、首を掻いてあげたりすることで、
うーこうはおいらの腕を枕にして、スリスリと甘えたりする余裕も出てきて、
おやつをねだったりもするようになった。
(おいらの腕を噛むのがオヤツちょうだいの合図)
そして、ニンゲンが猫部屋に来るのを楽しみに待つようになった。
======
そうして約1ヵ月ほどすると、不思議なことが起こった。
なんとうーこうは、目が見えなくなってしまったにもかかわらず、
明らかに目が見えていたときよりも高い精度で、
ニンゲンの存在を察知するようになったのである。
おいらが猫部屋へ来て、そっと扉を開けると、
うーこうはすぐにぴくっとして顔を上げ、「にゃ?」と鳴く。
そしておいらが近づいて床や布団をポンポンすると、
うーこうは
『やっぱりいた!』とばかりに、「にゃあああん!」と大きな声で鳴くのだ。
その様子を客人に見せると、客人も不思議がり、
「これは人が歩く振動で察知しているのではなく、
扉が開いたときに生じるわずかな空気の流れを毛先で感じ取って、
ドアの開閉を探知しているのではないか?そうとしか思えない。」
と言っていたが、本当にそうかもしれない。
とにかく、うーこうの知覚能力は日に日に進歩し、
まるで一種の超能力かと思うくらい、すごい察知力になっていったのだ。
そしてその頃には、もはやうーこうは猫部屋の中を何の苦労もなく動き回り、
ベッドにも平気で乗り降りするようになっていたのである。
おいらは生命の底力を感じ、
目が見えなくなっても必ずしも絶望ばかりではないなと思った。
* * * * * * * * * *
・・・と、ここまでが地獄編である。
最後のほうはそんなに地獄ではなかったが、うーこうにとっては、
「サンルームでいろんな人に甘えて遊ぶ」
というのができないので、そのぶん不幸であった。
そして、ここからが天国編。
9月になって、なんと、うーこうの目が、再び見えるようになってきたのだ!!うーこうの目は、9月初旬の「ひょっとして明暗くらいは見えてきたかも?」というレベルから、
今はもう、5月の段階とあまり大差ないくらいまで回復してきている。
おいらが猫部屋で奮闘している間、医師は医師で、きっちり仕事をしていたのだ。
さすがはサイボーグ先生、あなたは天才だ!
ひたすら感謝感謝である。
そして今日も、うーこうは事務所に行きたがって、猫部屋の扉の前で待ち構えていた。
おいらの隙を伺って、するりと扉を抜け、一目散に事務所へ走っていくためだ。
以前と同じくらい見えているから、こういうことができるのだ。
こやつがグソクムシのように素早く走る姿を、再び見れるようになるとは・・・。
こんなにうれしいことはない。
=================
というわけで、ろくに写真も撮ってなくて申し訳ないのだけれど、
あまりに嬉しいので、誰かに話したくて文字だらけの日記を書いてしまいました。
結末を最後に書いたので、読んでる途中で心配になった人がいたらごめんなさい。
また、うーこうの誕生日を祝ってくださった方には、ずっと放置してすみませんでした。
うーこうは、今日もアザラシのようなワクワク顔で、楽しそうに徘徊しています。
事務所の人達も、「うーちゃん、今日もめちゃくちゃ元気だねー!」とか言って、
元気なうーこうにつられて、人間も元気になっている感じです。
ちなみにうーこうは、「夜は留守番」と以前書いたけれど、
結局おいらが会社に泊まって、週に5~6日くらいうーこうと一緒に寝ています。
(おいらは学生時代もほとんど実験室に寝泊まりしてたので、
奥さんは「絶対こうなると思ってた」と笑いつつ理解してくれています。
しじみには申し訳なかったですが、うーこうは寂しがっていないのでご安心ください)
最後に、最近撮った写真じゃないけど、スマホにあった写真を何枚か載せておきます。

冬に撮った写真。ストーブの前はうーこうの指定席

ヘンな寝方をしているうーこう

あいかわらず頭が大きいうーこう

ひざに乗ってニンゲンの仕事を見ていたが、飽きて寝たうーこう

雪とうーこうを見ながら食べる西友ラーメン・・・の図
* * * * * *
「人気ブログランキング」へ 「にほんブログ村」へ いつもありがとうございます